松代大本営(長野市)など「戦争と平和」をテーマに多くの作品を残した同市の児童文学作家、和田登(わだ・のぼる)さんが4日、死去した。89歳だった。葬儀は7日に近親者で営んだ。後日、しのぶ会を開く。喪主は長男海彦さん。
小学校の教員を30年余り務め、信州児童文学会長や日本児童文学者協会評議員、長野県信濃町の黒姫童話館長などを歴任した。100冊ほどの作品を世に送り、半数近くは反戦・平和を訴えるものだった。
戦後70年にあたる2015年7月、取材に対し「原爆や空襲など被害の側面だけで戦争の実相は語れない」と、加害の視点へのこだわりを口にしていた。
その代表作と言えるものが、1971年から3年以上、自身で現地などを取材して書き上げた「悲しみの砦(とりで)」(77年、岩崎書店)。松代大本営の工事にかり出された朝鮮人労働者を取り上げた。
歴史と向き合い、過去をきちんととらえて知ることが大切だといい、「書いたものを次の世代につなげなければ」との思いも強かった。
17年9月、当時の安倍晋三首相が臨時国会の冒頭で衆院を解散し、野党から森友・加計問題の「疑惑隠し解散」と批判された。まっとうな政治が機能していないとして「暗澹(あんたん)たる思い」を言葉にしていた。
一方で、悲観に打ち勝つ理想主義も大切にしていた。それは「人間として、あすも幸せでありたい、いい世の中にしたいと願う本能的なもの」だった。
世界で戦火が絶えず、自国第一主義を掲げる国が幅をきかせようとする中で戦後80年を迎える。和田さんともう一度、率直に理想主義を語り合いたかった。